DN-CASについて

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DN-CASについて(1)                2016/11/12

知能を測る検査としては,WISCは一般的です。適宜,時代や文化,研究結果に応じて改定され,統計学的な裏づけもあり,信頼できる検査であると思います。ただ,WISCだけで知能や知的能力の特徴のすべてが網羅できているのかと言われれば,やはり完全な人というのがいないのと同様,WISCにもより良きを目指している過程にある,多少の不完全さはあるのだろうと思います。実際,検査をし,解釈してみると,こんな傾向はWISCでうかがい知れるけれど,深読みのし過ぎかもしれない,もう少し根拠がほしい,ちょっと趣向が変わっても安定して力は発揮できるのだろうか,と疑問に思うことも少なくありません。知能という点で,少し違った角度から光を当てることができる検査の1つとして,DN-CASという検査があります。一般には,「ディ-エヌ キャス」と呼ばれます。認知(認知機能)検査と位置づけられ,WISCと同様,検査結果の多くは数値化されます。通常の方法で,10以上の課題を行ないますので,実際の検査の所要時間は60分~90分くらいかかるのが普通です。それなりに時間がかかりますのでWISCと同日に行なうにはちょっと無理があると思います。テスト・バッテリー(WISC-Ⅳについて(15)を参照)という点でもWISCと別日に行なえれば,その人の知的能力を複眼に考え,理解できる材料が得られることになります。(つづく)

DN-CASについて(2)                     2016/12/30

DN-CASのDとNは2人の人の名前からそれぞれ取って,CASはCognitive Assessment Systemの頭文字を取ったものです。DN-CAS認知評価システムというのが正式名称です。対象年齢は5歳0ヶ月~17歳11ヶ月です。「認知」とは心理学の専門用語で,わかるようなわからないような言葉ですが,大まかには,見聞きしたこと(情報)をどう捉えるか,それをもとにどう考えるか,どう記憶していくか,というプロセスに注目する用語です。知能とは認知機能を含めた総合的な能力ですが,WISCで測られる知能は認知過程を経て整理されていることや認知過程を経て導き出されたことなど,どちらかというと「結果」に近いことに軸足を置いて,知能全般を考えていこうとしているように思えます。一方,DN-CASはどういう認知過程が得意なのか,不得意なのか,という「過程」に注目して,その人の知能にアプローチしようとしている検査のように思えます。ただ,WISCとDN-CASの課題が厳密に分けられているのかと言えば必ずしもそうではなく,似た課題が見受けられたりします。(つづく)

DN-CASについて(3)                                        2017/1/14

DN-CASの課題は,PASS理論という理論をもとに作られています。PASS理論とは,人の認知の過程にはおもに4つの特徴があるとする仮説です。その4つとは,プランニング(planning)・注意(attention)・同時処理(simultaneous)・継次処理(successive)です。それぞれの頭文字をつなげてPASSです。「プランニング」とは,問題の特徴をとらえ,問題解決の方法を考え,やり方や問題解決の進み具合を評価するプロセスで,学習場面で効果的に課題に取り組み,成果を上げるために必要な能力です。プランニングがよくできないと,非効率的なやり方に翻弄され,学習効果が高まらない,などの状態に陥ることが考えられます。ただ,プランニングのお力は,それまでどういった問題解決の経験をしているのか,より経験のある大人などがそれまでどう問題解決に導いてきたのかといったことも関係していそうです。この場合,いろいろなやり方をしてみて,結果がどうだったのか自分なりに評価していることが大切です。この点,測られるプランニングのお力は,それまでのプランニングの成果なのかもしれません。勉強を教えるのではなく,勉強の仕方を教える,と言いますが,プランニングを教える,という言い方もできそうです。(つづく)

DN-CASについて(4)                                        2017/3/21

DN-CASのPASS理論での「注意」とは,必要な情報に注目し,そうした注目を一定時間継続するお力です。集中力という言葉でとらえられがちですが,じつはもう少し高度で複雑な能力です。一般に,私たちは情報を見聞きして獲得しますが,カメラやビデオ,レコーダーのようにそのものをそのまま見て,そのまま聴いているのではありません。道を歩いていても,人に注目したり,信号に意識を向けたり,その時々によって注視しているものが変わります。私たちは知り合いに会ったとき,その後ろを通った人や風景まで写真のように鮮明に覚えているわけではありません。学校などの学習場面では,黒板の字や教科書の文字も自分なりに大切なところにアクセントをつけて(注目して)見て,記憶しています。耳で聴き取る情報についてはもっと顕著で,人の声と雑音は同質ではなく,雑音は切り捨てています。こうしたことを私たちは自動で行なっている点,とても高度な機能を持っていると言えます。むしろそうできないと不必要な情報に妨害され,翻弄され,混乱してしまいます。私たちは,選択的に何かに注目したり,それ以外を無視したりして,情報を適切に処理しているのです。これは,日頃の記憶をどう整理して貯蔵できるか,ということにも関係していて,整理されていない記憶は呼び起こすのにも困難であったりします。DN-CASの課題でも混乱しがちな中,どう適切に目標のものに注目して課題を遂行できるか検討しています。感覚過敏というと,何らかの刺激に過剰に反応してしまうというふうに取られがちですが,閾値(どのくらいの強度で感じ取れるか)だけの問題でなく,不必要な情報を適切に排除できない混乱も関係しているのでしょう。(つづく)

DN-CASについて(5)                                        2017/4/29

DN-CASのPASS理論での「同時処理」とは,いくつかの情報を関連づけるプロセスで,パターンを理解したり,図形や文字や単語,文章を理解したりする際に必要な力です。図形で言えば,線や点などをあるまとまりとして捉えようとする力です。私たちはもともと,情報をあるまとまりをもって捉える仕組みを持っています。例えば,点滅するネオンサインなど,私たちはただの点滅する個別の電球とは見ず,動きのあるメッセージとして受け取れます。このようにいくつかの情報を関連づけ,まとめて理解しようとする力が「同時処理」です。同時処理にはもう一つ大切な特徴があります。それは関連づける情報の量と質を微調整する力です。いくつかの可能性を検討する力であったり,視点を変えてみる力であったりします。「だまし絵」の思考・認知プロセスが良い一例で,最初はこう見えたものが,ちょっと改めて見直して違ったように見えてきたりします。絵や図の線や点をどこまでひとつのまとまりとして統合させるか,また言葉については,1つの単語をどう区切るかいくつかの可能性を検討したり,文章の中で意味を考えて,ない読点を仮定し読んだり,いくつもの文章から文意の流れを理解しつつ段落やある程度の大まかなまとまりとして理解することにも「同時処理」が関係しています。日本語の場合,文章の中で,「は」や「へ」をどう読むのか,”はは”を「母」とするのか,「葉は」とするのかなどの思考・認知のプロセスです。偏やつくりなど部分が集合して成り立っている漢字の理解も「同時処理」が関係していると考えられます。(つづく)

DN-CASについて(6)                                        2017/6/20

「継次処理」とは,順次・連続する情報を統合するプロセスで,同時処理がいくつかの可能性を検討する点で「横のつながり」を考える力であるとするなら,「継次処理」とは「縦のつながり」を検討・理解する力と言えます。「継次処理」は順序を重視する手続きの際に大切な力で,順序や順番のつながりに意識を向けるあり様です。電話番号を正確に覚えて,再生したり,手順の通りに物事を進めたり,計算の方法を間違えず,漢字の書き順もしっかり覚えられるといった力になりますが,少し時間がかかっても,これはこうして次にこうして,というように地道に1つずつ物事を処理していくことや正しい順番というものに関心や美意識をもつといった性格的なことも関係しているのかもしれません。順番には意味がある,と思えることの証左であるようも思えます。時系列に出来事を思い出して語る,というのも継次処理の思考・認知の力を使っていると考えられます。よく,「同時処理」は視覚により関係して,「継次処理」は聴覚に関係して,と説明されることがありますが,必ずしも正しい説明ではありません。それぞれの検査の課題が視覚的,聴覚的に偏っているという実情が関係しているようです。DN-CASの「継次処理」の課題はすべて聴覚的な課題ですが,KABC-Ⅱという検査には「継次処理」を測る視覚的な課題があります。(つづく)

 

DN-CASについて(7)                                        2018/1/6

DN-CASの数値評価(標準得点)は100を基準としています。プランニングなどの4つの領域も100を基準としています。この点,WISCと同様で,比較がしやすいのは,利点と言えそうです。WISC-ⅢとDN-CASとの相関は全検査(総合評価や全体のIQ)同士で0.77(p<.01),WISC-Ⅳとの相関は0.82と公表されています。統計学としては,十分な関係(相関)があると言えます。見方を変えると,WISCの課題が苦手だとDN-CASの課題も苦手で,WISCが好成績だとDN-CASも同様である,と考えることができます。ただ,プランニング・注意・同時処理・継次処理の4つの特徴とWISCとの関係(相関)はさまざまで,統計学的にWISC-Ⅳと4つの特徴では,まったく関係のないものから十分に関係(相関)のあるものまであります。この場合,関係のなさが非常に大切で,WISCではあまり計っていない認知機能をDN-CASでは計っているのではないか,と考えられます。別のものを計っているが,全検査では関係(相関)があるところが”ミソ”なのでしょう。WISCとDN-CASを比較・検討することで,受検されたその方の知性面での特徴をより深く考えることができます。(つづく)

 

【参考文献】

  • 天海丈久.(2013).自閉症スペクトラム障害における「DN-CAS認知評価システム」と「WISC-Ⅳ知能検査」のプロフィール特性及び相関に関する研究.未刊行修士論文(修第557号),弘前大学.

  • Naglieri, Jack A., & Das, J. P.  前川久男,中山健,岡崎慎治(訳編).(2007).日本版DN-CAS認知評価システム 理論と解釈のためのハンドブック. 東京:日本文化科学社.

  • Naglieri, Jack A., & Das, J. P.  前川久男,中山健,岡崎慎治(訳編).(2007).日本版DN-CAS認知評価システム 実施・採点マニュアル. 東京:日本文化科学社.

  • ナグリエリ,J.A., ピカリング, E.B.  前川久男,中山健,岡崎慎治(訳).(2010).DN-CASによる子どもの学習支援 -PASS理論を指導に活かす49のアイデア-. 東京:日本文化科学社.

  • Wechsler, David.日本版WISC-Ⅳ刊行委員会(訳編).(2010).日本版WISC-Ⅳ知能検査 理論・解釈マニュアル.東京:日本文化科学社

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