WISC-Ⅳについて

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WISC-Ⅳについて(1)                                                  2016/2/27

WISCと表記して,「ウィスク」と臨床心理学や精神医学の領域では呼称されます。その後についているローマ数字は版を示しています。もともと開発されたWISCを3回改定して,4回目のバージョンという意味です。臨床心理学の領域では,「ウィスク・フォー」と呼び習わされていますが,本来は4th editionですので,「フォース」と言うのが本当かもしれません。WISCも英単語の頭文字を略したもので,Wechsler Intelligence Scale for Childrenを縮めたものです。「ウェクスラー式の子どものための知的尺度」といったくらいが直訳になります。 (つづく)

WISC-Ⅳについて(2)                                                            2016/3/8

そもそも,ウェクスラーとは,人の名前です。Wechslerとつづります。知能検査の開発者として,その名前が後世に伝えられることになりました。開発されたのはアメリカで,そのため,英語版の本家を日本語に翻訳,翻案して日本に導入されます。日本で施行されるWISCはすべて,日本語版として日本の文化に合わせて体裁を整えられたものになります。こうした体裁を整える営みを標準化と言います。標準化されていないと,検査結果が果たして,平均的なのか,その回答を正答とすべきなのか,などの判断が難しくなります。社会ですべての人に受けてもらうのが,標準化の理想ではありますが,それは現実的ではないので,特定の一部の人に協力してもらいます.薬で言う治験もそうですが,知能や心理というとてもデリケートなことに協力してくださる方々の篤志のもとに標準化が成り立っているという一面はたしかにあります。ちなみにすでにWISC-Ⅴがアメリカでは使われているそうですので,日本語版のWISC-Ⅴもそのうち見られるようなるのでしょう。

                            (つづく)

 

WISC-Ⅳについて(3)               2016/3/23

心理検査は,適宜改定されていくべきものです。性格は変わらない,変わりにくい,と考える人もいらして,心理的なものはあまり変わらないのでは・・・,と考える向きもありますが,文化や時代の影響も多分に受けている,というのも事実です。社会場面での対処能力をも推察する知能検査などはとくにそうした文化や時代の影響を免れません。お金の単位に「銭」が出てきたり,ある場面に交換手に架ける壁掛けの電話が描かれていたりする検査はさすがに古いかなと思いますし,当時の心理検査の考え方(哲学や目的)とは,現在はずいぶんと変わっているところも多いでしょう。同じ検査の改訂版が出れば,新しい検査を活用したいところです.知能検査においては,とくに「フリン効果」という現象が指摘されていて,世代が若くなるにしたがって,算定される知能指数が上がっていく現象が見られます。一般には,同じ人が前の版の検査と今の版の検査を受けた場合,今の版での方が数値は若干低めになります。こうした現象は,WISC-ⅢとWISC-Ⅳでも同様の傾向が認められます。(つづく)

WISC-Ⅳについて(4)                                         2016/4/6

 WISCは子ども向けの知能検査ですが,WISCと同系統の大人向けの知能検査もあります。WAISがそれで,「ウェイス」と呼称されます。現在は第三版で*,WAIS-Ⅲと表記して,一般には,「ウェイス・スリー」と呼ばれますが,「ウェイス・サード」と言う方もいます。前に(「WISC-Ⅳについて(1)」)お話したのと同じ理由です。WISCとWAISは対象としている年齢によって,厳密に使い分けがなされます。WISC-Ⅳは,5歳0ヶ月から16歳11ヶ月までの子どもを対象にしています。WAIS-Ⅲは16歳以上89歳までが対象です。4歳のお子さんに無理をしてWISC-Ⅳを施行しても,標準化されていませんから(「WISC-Ⅳについて(2)」),検査結果として正確で根拠のある数値的評価はできません。17歳以上のお子さんにWISC-Ⅳを施行しても同様です。16歳代の子どもにどちらの検査をするかはその時の状況によって変わります。どちらの方が良い,ということはありません。(つづく)

 *2018年8月にWAIS-Ⅳが発売され,WAISの最新版はWAIS-Ⅳとなります。(2019/1/29追記)

WISC-Ⅳについて(5)                                                                                2016/5/8

WISCは海外の検査の翻訳・翻案なので,日本で開発された検査を使うべきだ,という考え方があります。現在でも公式な文書には元号が使われるのと同じ感覚で,日本で開発された知能検査こそが指定されることがあり,その代表格が田中‐ビネー知能検査です。児童相談所などの公的な機関ではよく使われています。アルフレッド・ビネーというフランスの心理学者の考案した世界最初の体系的な知能検査の考え方をもとに開発された検査の1つで,日本では同系統のもので比較的流布しているものに,鈴木-ビネー知能検査というのもあります。田中も鈴木も日本での開発者の名前で,これらはビネー式の検査とくくられることがあります。田中‐ビネー検査と鈴木-ビネー検査は,ビネーという「元」が同じですので,問題に類似性があります。さらに言えば,WISCにも雰囲気の似た問題は見られます。模倣や影響と考えることもできますが,私たち人類が「知能」という未知のものに相対するとき,何となく共通する視座を持ちやすいと考える方が妥当なように思います。(つづく)

 

WISC-Ⅳについて(6)                                       2016/5/26

 ビネー式の検査とウェクスラー式の検査では,総合的な知能指数(いわゆるIQ)の算定方法が違います。知能指数の表し方は,ビネー式の検査でもウェクスラー式の検査でも一緒で,100を基準・平均としますが,ビネー式の場合,検査課題が難易度で何歳くらいのものか予め設定されていて,受検した時点の実年齢と較べて,上の問題が安定してできれば100を超えるように計算されます。反対に年齢の問題に至らないと100を下回ります。別の言い方をすれば,小学4年生が小学5年生の課題ができれば,100を越え,小学3年生までの課題しか出来ないと100を下回る,という考え方をします。ウェクスラー式の場合は,受検した年齢と同じ年齢の集団の中でどこに位置するのか,という考え方で,私たちにとってはなじみある偏差値の考え方です。計算方法が違うので同じ人がビネー式とウェクスラー式の両方の検査を受けたとしても,偶然を除いてまったく同じにはなりません。同じ人が,1-2年の時間をおいて同じウェクスラー式の検査を受けたとしてもまったく同一の数値にはなりません。変動や誤差がまったくないわけではないので,算定された知能指数を絶対視する必要はありません。最近では,数値に幅を持たせたり,「平均」・「平均の上」などの5つくらいの大まかな段階に分類し直したりして伝えられることもあるようです。(つづく)

WISC-Ⅳについて(7)                                                   2016/6/11

 最近では,数値のほかに,信頼区間や分類上の名称(記述分類),パーセンタイル順位,標準出現率,有意差・有意水準といった情報が併記されることが増えてきました。それぞれ統計学の本格的な説明は私の力の及ぶところではありませんのでそれらは統計の専門家に委ねるとして,WISCの結果を考えるとき,統計学的に正確な説明ではありませんが,次のように考えると良いように思います。信頼区間とは,誤差を含めた力量の考えられる範囲です。一所懸命に検査を受けて,正しく検査を終えることができ,正当に判定したら,現在の力量としてはそれなりの頻度でその範囲のいずれかの値になるだろう,と統計学的には考えられる,ということです。90%や95%信頼区間という表示の仕方をされていて,おおむねその値の前後(上下,±)7~10くらいの数値が示されることが多いですが,前後いくつと決まっているわけではありません。例えば,85と結果が示されて,信頼区間として,79~94と記載されていたとします。今回の結果を判定したら,85という数値として評価できたけれど,79から94までの範囲内なら,多少数値に変動があるかもしれない,本来持っているお力としては,それくらいの幅を持たせて考えることが大切である,ということになります。ただ,経験上,上述の例で言うなら,数値上の70台,80台,90台を同質に考えてしまっては,受検した人の特徴を的確に理解はしにくくなります。統計学的な正しさを追求し,それからもたらされるメリットを享受しつつも,そういう検査結果になった特徴はどういったものなのか,他の関係する数値や回答の様子を勘案して総合的に判断することが大切になってくるのでしょう。(つづく)

WISC-Ⅳについて(8)                                          2016/6/22

WISCなどの知能検査に関して,数字だけが一人歩きする(数値しか見ず,数値のみで評価を決めてしまう),という批判や反省をよく耳にします。数値そのものにやはり多少の変動はありますので,数値は伝えないという考えもあるようです。今後はそういう時代になるかもしれません。数値の代わりに,その数値がどういった範囲や幅,ゾーンに属しているのか示すために,WISC-Ⅳでは「記述分類」として,「平均」・「平均の上」・「平均の下」・「高い」・「低い(境界域)」・「非常に高い」・「非常に低い」が用意されて,数値に対応して活用(分類)されます。こうした用語は時代とともに変遷して,以前は診断としての意味も込めて,今ではちょっと表記するのがはばかられるような用語が専門用語として使われていたことがあります。パーセンタイル順位とは下位から上位に向かって,どのくらいの位置にいるのか理解するのに役立ちます。WISCのIQは100が平均ですが,80と提示されたとき,それはそれでそうなのか,と思えますが,相対的な意味,たとえばちょっと平均に届かないくらいなのか,それなりに平均から離れているのか,はよくわかりません。パーセンタイル順位は成績順に100人並んでもらったとして,どのくらいのポジションなのかを示唆します。IQが100ならば,50パーセンタイル順位になります。便宜的ではありますが,自分より成績の良いのが約50人,自分のより成績が良くなかったのが約50人と考えられます。30パーセンタイル順位なら,自分より成績の良かったのが約70人,良くなかったのが30人というように,大まかな位置のイメージに役立ちます。平均的・一般的な集団の,30人の学級だとして,70パーセンタイル順位だとだいたい上位10番くらいと考えることもできます。(つづく)

WISC-Ⅳについて(9)                                         2016/7/17

WISC-ⅣにはいわゆるIQにあたる数値のほかにも様々な数値が併記されていることがあります。標準出現率もその1つです。標準出現率とは,その現象がどのくらいのまれなのかを示唆するものです。WISC-Ⅳでは,指標などの数値間の差を見るときに活用されます。少し前には,指標間に差があるから○○障害だ,というようにやや安易に考えられていたことがありました。知能にいくつもの側面がある,という考えがあまり一般的でなく,健常な人はどんな課題も比較的均質にできるもの,と考えられていたことも関係していたのでしょう。標準出現率が公表されるようになると,指標間に差がある人がそれなりにいることがわかりました。とくに比較的IQの高い人ほどそうした差が生じやすいことも示唆されました。標準出現率の見方ですが,標準出現率は累積の値として提示されますので,指標間の差がその値の人が何%いる,という見方ではなく,指標間での差がそれ以上なのが何%いる,という意味になります。一般には,10~15%を基準に考えてみて,それよりも小さな数値が示されていたら,10人のうち1人くらいの割合での出現率なので,多少まれな特徴と言えるのかもしれません。有意差・有意水準もまれさに関連した視点です。WISCでは,5%や15%のいずれかが使われます。5%の方がまれさを厳しく検討していることになります。有意差など「差」を指摘された場合,得意・不得意の示唆されるところ,と考え,特徴とその意味を考えていくことが必要です。(つづく)

WISC-Ⅳについて(10)                                        2016/8/9

 医療や福祉,臨床心理学の領域ではおもにWISCや田中-ビネーなどの検査が知能検査として使われますが,知能を示唆する検査が他にないわけではありません。教育の分野は,とくに学力・学業との関係で知能検査に親和的であるという背景もあり,医療や福祉ではあまり使われない知能検査が多用されていることもあるようです。何らかの知能検査を受けたとして,算定された数値を絶対視する必要はありません。これまで見てきたように,改定されていない,以前の知能検査は評価が甘めになります。開発されたのがいつの検査なのか,どう標準化されたのか,など検査自体を検討する目を持つことも大切になるのでしょう。また,最近では,数値そのものよりも検査での特徴を重視する方向に進んでいます。具体的に言うと,WISC-Ⅳでは,群指数という評価項目があり,「言語理解」,「知覚推理」,「ワーキングメモリー」,「処理速度」の4つがそれにあたります。それぞれがターゲットとしている能力に違いがありますので,「言語理解」が得意で,「知覚推理」が苦手など,その人の知的な能力の発揮のしやすさの個性を推し量ることができます。以前は「言語性知能」,「動作性知能」と二分して考えることもありましたが,ウェクスラーの検査では,現在,群指数という考え方が採用されています。(つづく)

WISC-Ⅳについて(11)                                        2016/8/25

WISC-Ⅳでは,全体のIQの他に群指数を算出します。群指数とは,実施した課題をグループ分けして,そのグループとしてのIQを算出するもの,と考えるとイメージとしてわかりやすいでしょう。ただ,群指数の平均が全体のIQになるのではなく,群指数と全体のIQは別々の正規分布を仮構して算出されますので,群指数と全体のIQとはイメージするよりはもう少し別個のもの,独立性のあるもの,という観方もできるかもしれません。全体のIQが平均の100でも均質に得意・不得意の差が少なく(群指数がほぼ均質で)100という数値になったのか,ある領域はすごく得意で,別の領域はとても苦手で(群指数間の隔たりが大きいけれど),結果として平均すると全体としては100になった,というのではやはり意味が違いますし,生活や学習場面でも困難の程度は違うのだろうと思います。現在のWISC-Ⅳでは,「言語理解」,「知覚推理」,「ワーキングメモリー」,「処理速度」の4つの項目が群指数として用意されています。名称は決定的・永続的なものではなく,検査が改定されるたびに多少変わったりします。厳密に何を測ろうとしているのか,つねに研究されていて,より精確な名称が選ばれている印象があります。「ワーキングメモリー」の示唆する領域は,WISC-Ⅲでは「注意記憶」と呼称されていましたが,検査項目の見直しなど経て,WISC-Ⅳでは,「ワーキングメモリー」として,ひとつの知的機能の領域を示唆するようになっています。簡単に言えば,「言語理解」は言葉に関するお力を,「知覚推理」は絵などの視覚情報の分析するお力を,「ワーキングメモリー」は聴覚的な情報処理のお力を,「処理速度」は書字の作業についてのお力を示唆するものです。これらで知的能力のすべてを語り尽くせるものではありませんが,ひと言でくくり切れない知的能力を多方面から理解していこうとする営みとして優れた特徴と言えるものなのでしょう。(つづく)

 

WISC-Ⅳについて(12)                                        2016/9/11

これまで見てきたように,WISC-Ⅳでは,4つの群指数が想定されていますが,それらがどう関連しているのか,さらに群指数を構成する検査課題の成績や様子も勘案して,受検したその人の特徴を捉えようとします。そこには,数値がいくつだった,というよりも,たとえ全体のIQが平均であってもどう平均なのか,平均よりも高かったとしてもそれは問題がないということを示しているのではなく,たとえば「ギフテッド(gifted)」としてのような生き辛さはないのか,などさまざまに検討していくことが自然になっています。専門家同士の会話で,全体のIQがどうで・・・,というばかりではなく,「処理速度」がどうで・・・,という言い方であったり,群指数を折れ線グラフ化したものをもとに話が進んでいくことが多いのもそうした姿勢や哲学が関係しているからのように思います。ただ,群指数を構成している課題(下位検査)の成績に差があまりなく均質的なのか,だとか検討にはいくつかの前提が必要で,多少気をつけなければいけないポイントがあります。つまり,群指数の数値(標準得点)をたんに観るだけではない視点が不可欠で,これは全体のIQをその数値だけで判断しないという,これまでお話してきた良識や節度と関係しているのでしょう。(つづく)

WISC-Ⅳについて(13)                                         2016/9/24

 そもそも知能検査が測ろうとしているものが変わってきている,という観方ができます。世界最初の体系的なビネー検査は,通常の教育で良いのか,通常の教育ではうまくいかないかもしれない子どもを見極めるために開発されたものでした。この点,ビネー式検査の一番の関心は通常の教育で良いか否か,という一点に集約され,効率や明瞭さの点からも全体のIQの評価に重きを置いていましたし,現在でも私たちの一般的な感覚として,IQは1つというイメージや印象が残っています。ウェクスラー式の検査は,少し前までは,全体のIQのほかに言語性知能と動作性知能とに二分して考えていました。これは軍隊への入隊試験の際,読み書き能力が十分な人とそうでない人向けというように言語能力に配慮して作成された2種類の試験問題があったという過去の影響が大きかったとされています。言語性知能と動作性知能という二分類は,必要に迫られた形式的なものに過ぎなかったのかもしれませんが,知能は必ずしも1つに限定されるものではなく,いくつかの側面があるのかもしれない,という考えを私たちに自然な形で示してくれました。現在,WISCには全体のIQのほかに群指数があり,さらに最近では,GAIという指標にも注目が集まっています。GAIとは,General Ability Indexの頭文字を取ったもので,「一般知的能力指標」と訳されています。知能の中核的な力量に関係しているのではないか,と想定されています。WISC-Ⅳでは,日本で標準化されたGAIを算出できます。また,CPI(Cognitive Proficiency Index;認知熟達度指標)も算出できるようになりました。CPIは過去の経験から習得した記憶や書字の作業の仕方の熟達度を示唆します。GAIやCPIという視点を持つことでまたちょっと違った角度から受検したその人の特徴を考えることができます。 (つづく)

WISC-Ⅳについて(14)                                       2016/10/10

1つの知能検査で,人生や生活の過去と現在と未来のすべてがわかるわけではありませんが,知能検査はコンビニに買い物に行くような気軽さで受検するものではなく,知能検査を受けることになった経緯がきっとあるはずで,知能検査の結果を考える専門家としては,やはりそうした経緯にまで思い巡らせたいものです。だからこそ,1つの知能検査を十分に活用したいと思います。一方で,一部分だけからの深読みのし過ぎにも注意しなければならず,そういった適切な加減の仕方は専門家としての経験や日頃の勉強が不可欠なのだと思います。群指数やGAIなどの指標のほかにも,WISCの検査課題の組み合わせで流動性推理や視覚処理といった知能の特徴を考える視座が提案されたりもしています。そうした視座からも受検した人の特徴を考えていかなければならないのでしょう。知能の考え方についても,現在では,統計学の発展とも関係して,知能とはいくつかの因子(要素)によって成り立つものであり,しかもそれらの因子(要素)は横並びではなく,階層になって,複雑に関係しあっている,と考えるようになっています。学業を例に,ちょっと雑駁に考えてみれば,国語や算数の理解や興味の持ちやすさ・持ちにくさは成績に関係して,学業のいくつかの側面を示唆していると言えます。さらに,国語や算数の基礎的な考え方,論理思考の能力は理科や社会の理解や成績を下支えしている点,階層化していると見ることができます。(つづく)

 

WISC-Ⅳについて(15)                                        2016/10/23

1つの知能検査を可能な限り分析できたとしても,やはり限界はあります。見落としてしまっているところも過大に評価してしまっているところもまったくないとは言えません。WISCは全般的な知的機能を検討するのに優れた検査であるように思いますが,WISCがすべての能力や特徴を絶対的・決定的に評価できるものでもありません。現在の臨床心理学の考えでは,テスト・バッテリーといって複数の検査を行なうことが良いとされます。知能という切り口ではなく,認知という切り口で他の検査を行なったり,学習の習得度と較べてみたり,あるいは性格面での評価や生活技能の達成度をWISC以外の検査をすることで検討し,複眼の視点で受検者を理解しようとします。人が両眼で物事を立体的に理解しようとするのと似ているかもしれません。別の視点から見ていこうとすることが大切なので,同じような知能検査であるビネー式の検査を組み合わせて行なう,という考えはあまりしません。複数の検査を行なう場合,もちろん矛盾する結果が出ることは珍しいことではありません。その矛盾する結果の意味を考えていくことが大切です。存外,そうしたところにこそ,その人の特徴が表れていたりします。(つづく)

  

【参考文献】

Wechsler, David.日本版WISC-Ⅳ刊行委員会(訳編).(2010).日本版WISC-Ⅳ知能検査 実施・採点マニュアル.東京:日本文化科学社

Wechsler, David.日本版WISC-Ⅳ刊行委員会(訳編).(2010).日本版WISC-Ⅳ知能検査 理論・解釈マニュアル.東京:日本文化科学社

Wechsler, David.日本版WISC-Ⅳ刊行委員会(編).(2014).日本版WISC-Ⅳ知能検査 補助マニュアル.東京:日本文化科学社

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